産業医とは何をする人なのか

「健康診断の結果を見てくれる人」「ストレスチェックで面談する人」「病気になった社員を休職させる判断をする人」——多くの経営者や人事担当者が、産業医をそう認識しています。間違いではありません。ただ、それは産業医の仕事のごく一部にすぎません。

産業医の本当の役割は、「病気を防ぐ人」ではなく、「働きたくなる会社をつくる人」です。

労働安全衛生法では、産業医は「労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識について」職場を巡視し、事業者に対して必要な勧告を行う立場と定められています。つまり、産業医は個人の診療をする医師ではなく、組織の健康を設計する立場の医師なのです。

産業医として多くの企業・経営者と接してきた経験から申し上げると、この視点の差が、会社の生産性にも、社員の定着率にも、経営者自身のメンタルにも、大きな差を生みます。

「病気を防ぐ」と「働きたくなる会社をつくる」は、何が違うのか

決定的に違うのは、スタート地点です。

「病気を防ぐ」アプローチは、不調が起きないように、リスクを管理するものです。ストレスチェック、健康診断、過重労働面談。いずれも、マイナスをゼロに戻すための仕組みです。

「働きたくなる会社をつくる」アプローチは、社員が自分の力を発揮できる環境を、医学的・心理的な観点から設計するものです。睡眠・運動・栄養といった基本的な健康行動を、経営の文脈に翻訳する。経営者・管理職のメンタルを整えることで、組織全体の雰囲気を変える。ゼロをプラスに動かすための仕組みです。

前者だけでは、会社は「病気を出さないこと」しか達成できません。後者があってはじめて、社員が能力を発揮し、経営者が本来の判断力を保てる会社になります。

なぜ産業医は「病気を防ぐ人」としか思われないのか

現場で感じるのは、産業医側と経営者側、双方の事情が重なっているということです。

経営者側の事情。産業医との接点が、法定義務の範囲に限られているケースがほとんどです。50人以上の事業所で選任義務、月1回の職場巡視、年1回のストレスチェック面談——この最低限のフレームだけで付き合うと、産業医は「法律で決まっているから呼んでいる人」になってしまいます。

産業医側の事情。多くの産業医は、外部の嘱託医として月数時間だけ関わる立場です。企業の経営課題や組織文化の深い部分まで踏み込む時間がなく、結果として「巡視して、面談して、書類にサインする人」の役割に留まりがちです。

この両者の事情が噛み合うと、「産業医=病気を防ぐ人」という限定的な認識が固定されます。もったいない話です。産業医は本来、経営者が持つ「会社の空気を変えたい」「社員に長く活躍してほしい」という願いの、最も近い協力者になれる立場なのです。

経営者自身のメンタルに、産業医はどう関われるのか

ここが、当院が最も大切にしているテーマです。

経営者は、産業医の対象ではありません。産業医が面談するのは、あくまで社員——法律上、経営者自身は健康管理の対象外です。つまり、会社で最も重いプレッシャーを抱えている人が、社内の健康サポートから構造的に外されているのが実情です。

だからこそ、当院では、経営者・エグゼクティブ向けに、産業医としての組織視点と、整形外科専門医・医学博士としての個人の健康設計を統合したパフォーマンストレーニングを提供しています。

「会社の空気を良くしたい」という願いは、多くの場合、経営者自身のメンタルの状態から始まります。経営者が冷静さを取り戻せば、組織の意思決定が変わり、社員の働きやすさも変わる——産業医として何社もの組織を見てきて、何度も確認してきたことです。

産業医を「活用しきれている」会社は何が違うのか

業種や規模を超えて、産業医を活用できている会社には共通点があります。

第一に、産業医を「義務」ではなく「経営の相談相手」として位置づけていること。ストレスチェックの実施率だけでなく、結果をどう経営判断に活かすかまで踏み込んでいます。

第二に、経営層自身が自分の健康とメンタルに関心を持っていること。社員に健康を求める会社のトップが不健康、という状態は、組織文化として成立しません。

第三に、「働きたくなる会社」という明確な言葉で、社員に向けたメッセージを持っていること。病気を防ぐだけでなく、ここで働くことが自分のキャリアにとってプラスになる、と社員が感じられる設計がされています。

産業医は、この3つのどれにも関われます。関わるかどうかは、経営者が産業医をどう位置づけるか次第です。

まとめ:産業医を「経営のパートナー」として使えているか

  • 産業医の本当の役割は「病気を防ぐ人」ではなく「働きたくなる会社をつくる人」
  • 法定義務の範囲だけで付き合うと、産業医のポテンシャルの1割も使えていない
  • 経営者自身は産業医の対象外——だからこそ、経営者専用のメンタルサポートが必要
  • 産業医を活用できる会社は、経営層の健康意識と、明確な組織メッセージを持っている

当院では、産業医としての組織視点と、医学博士・整形外科専門医としての個人の健康設計を統合した、経営者・エグゼクティブ向けパフォーマンストレーニングを提供しています。

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